地震に台風、水害、そして火山噴火……「災害列島」ともいわれる日本列島では、残念ながら毎年のようにさまざまな自然災害が発生してきた。
自分の身に危険を感じるような自然災害に遭遇したとき、テレビやラジオといったマスメディアと並んで頼りになる情報源の1つがインターネットであり、TwitterやFacebook、LINEといったソーシャルネットワークサービス(SNS)だ。たとえ外出先でも、自分が必要とする情報を必要なときに入手できるという意味では、マスメディア以上の力を持ち始めているかもしれない。
ライブドアニュースでは、ゲヒルンの防災情報配信サービスを活用し、SNSを通してユーザーにいち早く、正確な災害情報を届ける取り組みを進めている。
「災害・防災関連情報も最速で伝えたい」が採用のきっかけに
国内有数のポータルサイト「ライブドア」の中でさまざまなニュースを伝えてきた「ライブドアニュース」は、「ユーザーファーストで、ユーザーが求める情報は全て提供していく」という方針の下、社会・経済から芸能・スポーツに至るまで国内外のさまざまなニュースや天気予報、交通情報などをWebで、そして最近はSNSを活用して伝えてきた。Webだけで月間で約6億ページビューを集めているが、最近はSNSのプレゼンスが上がっており、特にTwitterの月間インプレッション数は約10億に上るという。
「それが何であろうと、『ユーザーが求める情報は全て出していく』というのがライブドアニュースの方針です。その中でも、災害・防災関連の情報は、ユーザーが本当に必要としている情報です。SNSの反応からも、ダイレクトに『本当に求めている情報なんだな』ということが分かります」と、LINE ポータルカンパニー 第2メディア局 LDニュースチームでマネージャー/リーダーを務める森和文氏は語る。
LINE ポータルカンパニー 第2メディア局 LDニュースチーム マネージャー / リーダー 森和文氏
そもそもLINEというアプリ自体が東日本大震災の経験を踏まえて開発された背景もあり、ライブドアニュースでは以前から、防災・減災のための情報提供に取り組んできた。気象庁が提供する防災気象情報を基に、ライブドアポータルの見やすい場所に地震情報を表示する仕組みを独自に実装し、身を守るための情報を素早く伝える努力をしてきた。
ただ、情報が伝わるのは早ければ早いほどいい。もっと早く、できれば「最速」で届けるにはどうしたらいいか――その手段を求めて施行する中で浮上してきたのが、ゲヒルンが情報配信元になっているTwitterアカウント「特務機関NERV(@UN_NERV)」だった。
「アイコンはちょっと怪しいけれど、地震をはじめ災害があったとき、このアカウントはとにかく情報が早い。東日本大震災のときにこのアカウントが果たした役割も耳にしていたので、まずはコンタクトを取ってみました」と森氏は振り返る。
スピードが命の災害情報、迅速な配信を実現する仕組みとは
災害情報には、相反する2つの性質が必要だ。1つは言うまでもなく「速い」こと。少しでも速く情報が伝われば、その分、より早く身を守るためのアクションを取ることができ、命や財産を守ることにつながる。そして同時に「正確」であることも欠かせない。不確かな情報に踊らされては、守れるものも守れなくなる。
森氏らがNERVのアカウント、そしてゲヒルンが提供する防災情報配信サービスに対して抱いた感想は、その2つが両立できていることだった。ゲヒルンは大きな企業ではないが「大事なのは、その情報を誰が出しているかではなく、しっかり正確な情報が素早く提供されること。ゲヒルンはそれが担保されていると感じました」(森氏)
災害情報配信のスピードを決するポイントはどこにあるのか。ひとつは、気象庁からの情報の取得方法だ。気象業務支援センターを通じて情報を取得する場合、JMAソケット付きTCP/IPと呼ばれる独自形式でソケット通信を行うか、FTPでPUTされるのを待ち受ける方法がある。JMAソケット付きTCP/IPは、気象庁の独自の形式で、仕様書に基づいて通信プロトコルを実装する必要がある。また、FTP方式では、情報がPUTされたことを自力で確認(hook)する仕掛けを要する。いずれの方法も、簡単には実装できない。石森は、「最速で情報を取得するには、さまざまな工夫と実装が必要」と語る。
ゲヒルン 代表取締役 石森大貴
ゲヒルンの防災情報配信サービスでは、気象庁のデータを加工し、さらに独自に作画した地図や気象庁XMLにはない補足情報を付加したうえで、HTTPを通じてJSONデータをPOSTする形で配信する。LDニュースチームの大澤俊平氏は、「この形式で送ってもらえるのが一番ありがたいです。われわれはそれを受け取って流すだけで、それが最速の近道になっています」と語る。事実、同サービスを採用してSNSで情報を発信し始めた後は、「社内外を問わず、『速いね』と言われるようになりました。こんなに速いのだから他の事業者もどんどん採用して、早く災害情報が伝わるようになればいいのに、と思います」と森氏は述べている。
LINE ポータルカンパニー 第2メディア局 LDニュースチーム 大澤俊平氏
またLDニュースチームの野村勇太氏は「配信サービスを実装するにあたっては、テストのところが一番のネックです」という。
いつか地震が起きるのを待つわけにもいかないため、何らかのテストデータが必要になるが、「ゲヒルンに依頼したところ、ボタンをポチッと押すだけでテストデータを送信できるテストツールを用意してくれて、簡単にさまざまな電文についてテストができました。その上、デザインについても、さまざまなカラーコードを調整できるツールまで作ってもらい、画面を見ながら調整することができました」(野村氏)。災害という重要な情報を提供する以上、伝わりやすい見せ方にも配慮する必要があるが、その面でも助かったという。
LINE ポータルカンパニー 第2メディア局 LDニュースチーム 野村勇太氏
また、市町村名の変更や合併などで地図情報に変更があった場合でも、その違いをゲヒルン側で吸収してくれることもメリットだと感じている。「気象庁のデータとの間でマッピングを変更したり、それに必要な作業を担当者に依頼したりといった作業が必要なのですが、ゲヒルンの場合、そういった負担がないので助かっています」(大澤氏)
情報を伝えることの意味とはーーユーザーが必要とするものを追求
もう1つ、今回の連携は、あらためて「情報を提供するとはどういうことか、どうあるべきか」という根本を問い直すきっかけにもなったという。
森氏は石森と会話する中で、防災に対する考え方について強い印象を受けたそうだ。「会話する中で『最近はろくなプッシュ通知がない。これでは狼少年になる危険性があるのではないか』と言われ、ニュース事業者として、これは非常にまずいことだなと感じました。毎日さまざまなニュースがありますが、本当にそれらは全員が全員知る必要があるニュースかというと、そうではありません。情報を取り扱うのは本当に難しいなとあらためて考えさせられました」(森氏)
特にアプリのプッシュ通知は、ユーザーの注意を引くという意味では効果が高い。だが、だからといって安易に何でもかんでも伝えていくと感覚が麻痺し、本当に伝えるべき情報に注意が払われなくなり、大事な情報が届かなくなる恐れがある、というわけだ。
「例えば、震源地から遠い地域の人にまで地震情報を送ったり、その人にとって必要ない情報まで送ってしまっているのではないかを顧みました。何をプッシュし、何をプッシュしないのかを本当に考えるべきだと思っています」(森氏)
ライブドアニュースではその解の1つとして、アプリの機能を強化し、ユーザーそれぞれの属性に合わせたパーソナライズを組み合わせていこうとしている。ゲヒルンからの情報をそのまま出すのではなく、地域ごとに細分化して出し分けることで、よりスムーズに、かつ有益な情報を提供できるのではないかと考え、準備を進めている段階だ。
「今や、ユーザーが情報を選ぶ時代になってきています。パーソナライズができれば、何でもかんでも送るのではなく、ユーザーにとって必要な情報とそうでない情報を仕分けして提供できると思います。そのために機械学習などの技術を活用し、データ分析して適切なデータを仕分けしていく仕組みを実現していきたいと考えています」(森氏)。それが、これからのニュース事業者としての役割ではないかと考えているという。
災害情報に限らず、ユーザーに合わせ、プッシュ通知を本当にいいものにして信用・信頼を高めていくことで、ユーザーにとって欠かせない存在になっていきたいというライブドアニュース。ゲヒルンがいち早く提供する災害情報とともに、ユーザーが欲するものを提供し続けていく。
この記事は2019年5月の取材をもとに構成しています。